Logical Skill の深い話
Logical Skill (特にLogical Writing) について、著書(たとえば、「論理が伝わる世界標準の書く技術」講談社)には書かなかった、より深い話を紹介します。
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二重否定は避ける
 テクニカル・ライティングでは、二重否定は避ける。二重否定は否定の否定なので、肯定文に直る。肯定文の方が簡潔で分かりやすい。

 二重否定を肯定文に直す1つの方法は、そのまま前後を肯定文にしてしまうのだ。たとえば、「組織の壁がなくならないから、売り上げが伸びない」なら、「組織の壁がなくなれば、売り上げが伸びる」とする。短く分かりやすい。

 しかし、この修正は、修正前と後が完全には同じ意味ではない。修正前は、必要条件だったことが、修正後には十分条件になってしまっている。

 そこで、2つめの修正として、後ろから前に肯定文にする手がある。つまり、「売り上げを伸ばすには、組織の壁をなくすべきだ」とするのだ。これなら、修正前後が同じ意味になる。

 この2つの修正を知っていれば、二重否定はすべて肯定文に直せる。だから、二重否定を使うのは、強調のために肯定文を述べた後に追加するような場合だけになる。たとえば、「組織の壁がなくなれば、売り上げが伸びる。このままいつまでも組織の壁がなくならないから、売り上げも伸びない」のように。

 ちなみに、先日あるテレビで「No challenge, no success」を、「チャレンジするから成功する」のように肯定文で訳しているのを見た。「おお!知っている人がいる」と思ったものだ。普通なら、「挑戦しないなら成功もない」のように訳すところだ。
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代名詞の単独使用を避ける
 テクニカル・ライティングでは、代名詞を単独で使用することを避ける。代名詞を使うなら名詞と合わせて使う。

 代名詞の使用を避けるのは、代名詞が指している情報を誤解したり、読解したりすることになるからだ。「それ」とは何を指すかを誤解しなくても、読解しなければならないなら、実務文章として失格だ。中には、筆者に聞いても答えられないようなひどい代名詞もある。何を指すかを読み手にわずかでも考えさせてしまうなら、その代名詞は使うべきではない。

 たとえば、「速く論理的に書く技術」(平田周)の以下の文章。2文目の「それには」が何を指しているのか分からない。筆者も答えられないのでは?
----引用----
 書き方の指導というと、マナーのお説教と同じで、何か堅苦しい、面白くないもののように思われがちですが、考える力を養うのと同じで夢のあることです。それには、あまり細かいことに神経を使わず、言うべきことを的確に伝えることに注意を向けましょう。数多く書いているうちに、書く技術は自然と身につきます。
----引用----

 代名詞を使うなら、「この〇〇」のように、名詞と合わせて使う。こうすると、誤解なく、読解することなく読める。たとえば以下のように。
悪い例:現状では企業隣接の育児施設はごく少数であり、また託児時間も短い。これを企業隣接型にしたり、時間の延長をしたりすべきである。これを政府は、補助金等により支援するとよい。
よい例:現状では企業隣接の育児施設はごく少数であり、また託児時間も短い。この託児施設を企業隣接型にしたり、時間の延長をしたりすべきである。このような活動を政府は、補助金等により支援するとよい。
同じ言葉は繰り返さない?
 日本語の文章の書き方の本を見ると、よく「同じ言葉は繰り返さない」ということが書かれています。しかし、この説明では、同じ言葉の繰り返しは必ず避けなければならないような誤解を招きかねません。正しくは、「キーとなる単語は統一して使用し、言い換えはできるだけ避ける。それ以外の単語、特に文末表現は、同じ言葉を繰り返さない」です。
 
 キーとなる単語は統一して使用しなければなりません。読者が同じものを指しているのか判断できない場合があるからです。同じ単語を使い続けると、単調になり、不自然にすら感じることがあります。しかし、ビジネス文章では、誤解を招かないということが優先されます。特にマニュアルではこの考え方は重要です。
 
 キーとなる単語以外は、なるべく同じ言葉を繰り返さないほうがよいです。なぜなら、同じ言葉の繰り返しは、読み手に不自然さを与え、時には、稚拙な印象すら与えかねないからです。キーとなる単語以外なら、同じことを別の言葉で表現しても、誤解を生む心配はありません。
 
 キーとなる単語以外とは、接続詞や文末表現です。たとえば、『または』が連続するようなら、一方を『および』に換えたり、『....です。』という表現と『....ます。』という表現を混ぜて使うと良いです。
受動態か、能動態か(APAのマニュアルから)
 以前、「受動態か、能動態かは問題ではない。話の中心を主語に置けば、態は自然と決まる」話を書いた。同様の内容を、「APA論文作成マニュアル」(APAはアメリカ心理学会)では、以下のように述べている。
APA_manual.jpg

---引用始---
3.18 動詞
 動詞を巧みに使うことで,力強いストレートな表現が可能になる。受動態(~される)ではなく能動態(~する)を使うこと。また,時制(時間の表現)と法(客観的表現 vs. 主観的表現)の用法には十分注意すること。
 能動態を使用すること
  好ましい表現:
   We conducted the survey in a controlled setting.
   「我々は制御された状況下でその調査を実施した」
  好ましくない表現:
   The survey was conducted in a controlled setting.
   「その調査は制御された状況下で実施された」
 学術論文で受動態を使ってよいのは,行為をする側よりも,行為を受ける対象に焦点を当てる場合である。たとえば,The speakers were attached to either side of the chair.[スピーカーは椅子の両サイドに設置された]という文では,スピーカーが置かれたことが重要であって,誰がスピーカーを置いたかはとりたてて意味がない。特に「方法」を扱う項目では受動態の使用が意味をもつ。The President was shot.[大統領が撃たれた]という文では,誰が撃ったかではなく,撃たれた人を強調することに意味がある。
---引用終---

 「力強いストレートな表現」という抽象的な根拠は気に入らないが、まあ妥当な説明である。

 なお、「APA論文作成マニュアル」は、アメリカ心理学会が、自分たちの標準をまとめた本である。すべての論文に適用すべきという趣旨の本ではない。アメリカ心理学会に論文を投稿する場合は、この標準に基づいてほしいという趣旨である。しかし、心理学以外のあらゆる分野で参考になる。

 英語を勉強している人や論文を書く人には一読を進める。ただし、ちょっと値がはる。まずは、会社や学校の図書館にあるものを読んで、気に入ったら買えばいいでしょう。
一文一義の例外
 ライティングの基本的なルールに「一文一義」というのがある。1つの文では1つのことだけ述べようということだ。しかし、「一文一義」にも例外はある。

 以下の文章(第16回 早稲田大学―ミシガン大学 科学・工業英語検定試験の模範解答より)を例に説明しよう。(このテストについては、http://www.teptest.com/outline.html を参照)この文章を作成したのは、ミシガン大学のテクニカルコミュニケーションの教授である。
日本語訳:
その調査は、多くの種が甚大な悪影響を受け、7種は絶滅の可能性すらあると結論づけています。エランドと象、レッドコロバス・モンキーは、ダムの建設と操業の両方から、壊滅的な悪影響を受けます。ウォーターバックとアフリカンバッファローは深刻な悪影響を受け、ローンアンテロープとワイルドハンティング・ドッグも深刻な悪影響を受ける可能性があります。
元の英語:
The study concluded that many species are faced with severe negative impacts, with up to seven faced with possible extinction in the region. The eland, elephant, and red colubus monkey will receive substantial negative impact from both construction and operation of the dam. The waterbuck and African buffalo will receive potentially substantial negative impact, while the roan antelope and wild hunting dog will receive possible substantial negative impact.

 注目は、3文目で2つの文がつながっていることだ。元の英語は、whileを使っているとはいえ、実質的にはandでつないだのと同じだ。この2つの文をつなぐ必要はない。

 なぜ、3文目が一文一義になっていないかというと、3文目を意図的にぼかしたいからだ。つまり、2文目で述べた、壊滅的な悪影響を受けるエランドと象、レッドコロバス・モンキーを強調したいのだ。この3種に比べて、比較的影響の小さい4種の説明をぼかしたいので、2文をつなげているのだ。3文目を2文に分けると、もっとも重要である「壊滅的な悪影響を受ける種」が、逆にぼける。


プロフィール

ロジカルスキル研究所代表

Author:ロジカルスキル研究所代表
ロジカルスキルを企業研修で指導しています。主な講座は、ロジカルライティング、ロジカルネゴシエーション、ディベート、ロジカルプレゼンテーション、英文テクニカルライティングです。

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