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Logical Skill の深い話
Logical Skill (特にLogical Writing) について、著書(たとえば、「論理が伝わる世界標準の書く技術」講談社)には書かなかった、より深い話を紹介します。
11 | 2018/12 | 01
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AI翻訳
 VoiceTraやGoogle翻訳のようなAIベースの翻訳でも、まだ不十分であることを指摘した。では、AIの進化とともに、近い将来十分な翻訳が出来るようになるのかというと、私は懐疑的だ。その理由は、フィードバックがないから。

 AIベースの翻訳では、意味を込めるような表現を翻訳するのが苦手だ。たとえば、以下のような文である。
「この装置は、赤外線センサーが内蔵されていて、障害物を認識できます。」
VoiceTraの英語
"This device is equipped with an infrared sensor and can recognize the obstacles."
Google翻訳の英語
"This unit has an infrared sensor built in, and it can recognize obstacles."

 この翻訳の問題は、「て、」を"and"と訳していることだ。この2つの文は、"and"(等位接続)では接続できない。なぜなら、前半の文は手段で、後半の文は行為だからだ。"and"で接続できるのは、手段と手段か、行為と行為だ。

 日本語の「て、」には、等位ではない別の意味が込められている。その意味を、2つの文の関係から、読み手側が読み取っているのだ。日本語では、このような意味を込めた接続がよく使われる。

 意味を込めない明確な日本語を入力すれば、AI翻訳は正しく翻訳(下記参照)してくる。
「この装置は、内蔵の赤外線センサーを使って、障害物を認識できます。」
VoiceTraの英語
“The device can recognize the obstacles by using an integrated infrared sensor.”
Google翻訳の英語
"This unit can recognize obstacles by using built-in infrared sensor."

 しかし、現実にはAI翻訳が、込めた意味を推測する必要がある。なぜなら、日本の教育では、「この装置は、赤外線センサーが内蔵されていて、障害物を認識できます。」は、不十分な文であるとは習わないからだ。ほとんどの人は、こういう文を、正しいと思って、ごく普通に書いてくる。AI翻訳のために日本語の再教育をするなら本末転倒だ。

 AI翻訳が、込めた意味を推測できるようになるには、誰かがフィードバックしてあげないとならない。つまり、「この翻訳ではだめで、こう意味をくみ取らないとならない」と、AIに教えてあげなければならない。AIが、「この英文で正しく翻訳できた」と思っている限り上達はない。

 しかし、このフィードバックは期待できない。なぜなら、AI開発者が現状の問題点(AIが文と文の接続を推測できない)ことに気がついていないからだ。AI開発者が「正しく翻訳できた」と思っている限り、いつまでたってもAIが文と文の接続を推測できるようにはならない。

 AIは自己学習すると思っている人もいるかもしれないが、こういうケースで自己学習は期待できない。自己学習というのは、囲碁や将棋の対戦で負けるというようなフィードバックをベースとしている。あるいは、膨大な情報から標準的傾向を読み取って学習する。しかし、翻訳の世界に勝ち負けはないし、意味を込めた表現が一般的だ。これではAIによる自己学習は期待できない。

 不十分だというフィードバックがかからない以上、AIが正しく翻訳できるようになるには時間がかかるだろうというのが私の予測である。
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AI翻訳
 VoiceTraという同時翻訳アプリがある。VoiceTraとGoogle翻訳で同じ日本語を翻訳させてその精度を検証していみた。

 VoiceTraの精度は、TOEIC900点レベルだそうな。ポケトークという同時翻訳機(明石家さんまが宣伝している)のエンジンにもなっている。この翻訳アプリは、政府も導入に動いているという記事が朝日新聞に載っていた(情報提供は京都橘大学池田教授)。

 Google翻訳の精度は、このFBでも以前説明した。悪くはないが、不十分なことは多い。特に、主語の選択、時制、文の接続が不適切だ。

 具体的に見ていこう。

1.「この装置は、赤外線センサー が内蔵されていて、障害物を認識できます。」

VoiceTraの英語
"This device is equipped with an infrared sensor and can recognize the obstacles."

Google翻訳の英語
"This unit has an infrared sensor built in, and it can recognize obstacles."

コメント:
 VoiceTraではequipという動詞を使っていることが評価できる。Google翻訳ではhaveという口語調の稚拙な表現を使っている。しかし、どちらも文の接続がだめだ。日本語の「て、」はandではない。

2.「当社は懐具合が窮屈なため、10%の割り増し料を請求せざるを得ません。」

VoiceTraの英語
"We have to charge ten percent extra charge because our company is too tight."

Google翻訳
"We are forced to charge a surcharge of 10% because our business is cramped."

コメント:
 VoiceTraでは「せざるを得ません」を”have to”と適切に訳している。しかし、いずれも、chargeが重ね言葉になっているし、「懐具合が窮屈」を訳せていない。主語の選択も出来ていない。

総合評価:
 翻訳の質はVoiceTraが上だが、VoiceTraには文の長さに制限があるので、一長一短か。いずれにしろ、まだまだ不十分だ。TOEIC900点レベルとは言えまい。
英会話の学習法
 友人のFaceBookに、20年以上前の話として、黒人は知的な英語を話せても日本では英会話の講師としての職が得られないという、差別の話が載っていた。それで思い出したことがある。25年ほど前、私が英会話を勉強していた頃、最も勉強になった英会話レッスンの講師が黒人だった。

 彼のレッスンには厳しい宿題が課せられていた。提供された英会話のテープ(当時はカセットテープ)を聴いて、その内容を文字に起こしてくるのだ。レッスンは週一回だが、18時からの2時間のレッスンに、1時間以上の予習が必要だ。しかも、レッスンの冒頭で、受講者どうしが聴き取ってきた英語を、英語だけを使って確認しあう。だから、宿題をやってこないと、冒頭の30分はレッスンに参加できない。

 厳しい宿題の結果、受講者みるみる減少した。20人近くいた受講者は、最後は私を入れて3人前後まで減った。そりゃあそうだ。当時は長時間労働が当たり前の世界。レッスンに参加するのだって大変だ。私だって、宿題を昼休みにやり、20時までレッスンを受けた後、22時まで仕事をしていた。

 しかし、残った受講者は全員、英会話力が向上したと感じた。スキル習得には、それなりの努力がいる。楽してスキルは身につかない。寝る間を惜しんで努力した人間だけがスキルを向上できるのだ。

 その後、彼がどうなったかは知るすべがない。20人近くいた受講者が3人前後まで減ったのだ。講師としての評価は低いだろう。職を失ったかもしれない。

 彼のプロとしてのプライドは、今でも心に残っている。
Google翻訳での注意点
 最近、私は英語を指導するとき、日本語をGoogle翻訳で英語に直し、その英語を修正するような指導を取り入れている(それだけではないが)。

 Google翻訳で少しでも英文作成の時間が短縮できれば、それに越したことはない。Google翻訳、昔の自動翻訳と異なり、かなり精度が上がっている。しかも無料だ。これをビジネスに使わない手はない。

 しかし、Google翻訳では不十分なことも多いので、そこを指導する。具体的には、いかのようなポイントだ。
 ・時制の誤り(過去形と現在完了形)
 ・主語の選択の誤り
 ・書き言葉向けの表現への修正

 Google翻訳で、もう一つ大事なことは、日本語を正しく書くことだ。日本語では普通に使う表現でも、実はAIでは理解しきれない表現がある。また、日本語が冗長なら、英語も冗長になる。

 たとえば、以下の日本語と、Google翻訳で作成された英語を考えてみよう。
元の日本語:
「この装置は、赤外線センサーが内蔵されていて、障害物を認識できます。」
Google翻訳の英語
「This unit has an infrared sensor built in, and it can recognize obstacles.」

 Google翻訳は、日本語を正しく読み取れていない。「赤外線センサー内蔵」と「障害物を認識」は、andで接続する情報ではない。前者は手段で、後者は行為だ。手段と行為は、等位(and)接続できない。しかし、日本語では、こういう意味を込めたような表現をよく使う。

 Google翻訳で正しい英語を出すためには、日本語も明確に書かなければならない。先の例でいえば、以下のような日本語なら、そこそこの英語が出てくる。
元の日本語:
「この装置は、内蔵の赤外線センサーを使って、障害物を認識できます。」
Google翻訳の英語
「This unit can recognize obstacles by using built-in infrared sensor.」

 結局、科学が進歩しても、日本語の書けない人は、英語も書けないのだ。
英語の婉曲表現
英語にも婉曲表現はあります。ただ、日本語とは異なるので、婉曲と理解できない人が多いのです。

 たとえば、以下の英文を考えてみましょう。
If the articles are delivered later than the end of February, we may have to refuse them.
(訳:記事が3月以降に届いたときは、拝受できません)

 日本人が英語を書くと、後半が以下のようになる場合が多いです。実際に、そういう意味ですから。
we will refuse them.

 この"may have to"が婉曲表現です。

 まず、助動詞"may"が婉曲的な意味を持ちます。"may"は、50%以下の確率を表す助動詞です。一方、"will"なら99%を意味します。"may"という確率の低い助動詞を使うことで、ほぼ言い切りの"will"より当たりが柔らかくなります。(だからといって、残りの50%に賭けてみようなどと思ってはいけません)

 つぎに、"have to"も婉曲的な意味を持ちます。正しく日本語訳すれば、「~せざるを得ません」です。"have to"には「他人の都合により」というニュアンスがあります。つまり、「私は受け取っても良いのですが、他の人に迷惑が掛かるので、お断りせざるを得ません」という意味になります。

 このように、英語においても、教養ある人間なら、NOを言うときには配慮するものです。



プロフィール

ロジカルスキル研究所代表

Author:ロジカルスキル研究所代表
ロジカルスキルを企業研修で指導しています。主な講座は、ロジカルライティング、ロジカルネゴシエーション、ディベート、ロジカルプレゼンテーション、英文テクニカルライティングです。

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