Logical Skill の深い話
Logical Skill (特にLogical Writing) について、著書(たとえば、「論理が伝わる世界標準の書く技術」講談社)には書かなかった、より深い話を紹介します。
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最初に概略を述べない人
 昨日、「多くの本で、章や節の最初で概略が述べていない」という趣旨のことを述べた。最初に概略を述べない人の主張は、だいたい以下の二つだ。
 1.後ろを読めばわかることを先に述べる必要はない
 2.先に概略を述べれば、読み手が興味を失う
しかし、違う!

 後ろを読めばわかることを先に述べる必要はある。先に述べてあれば分かりやすいからだ。概略を知ってから詳細を読んだ方が分かりやすい。このことは、道順を説明する際、以下の説明のどちらが分かりやすいかを考えればよい。
 1.市役所までの道順を説明します。市役所はあっちの方向に歩いて10分です。角を3回曲がります。まず、この道をまっすぐ行って、…
 2.市役所までの道順を説明します。まず、この道をまっすぐ行って、…

 後ろを読めばわかることを先に述べる必要は、もう一つある。先に述べてあれば、先を読む価値があるかがわかるからだ。読む価値がない内容であることを、後ろを読めばわかるのでは困るのだ。後ろ読んでから、読む価値がないことがわかる本は、時間泥棒だ。

 先に概略を述べれば、読み手が興味を持つのだ。概略を読んで価値が高いと判断できれば、詳しい内容を知りたくなる。興味深い内容を、概略だけで満足することはない。この代表例が論文だ。論文は最初のアブストラクトで重要な情報を示す。「先に概略を述べれば、読み手が興味を失う」のは、文学のような読んで楽しむ文章だ。
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章だけではなく節でも総論で始める
 海保博之著「こうすればわかりやすい表現になる」では、「各章の最初に、章内の節、小見出しの目次を入れ、さらに概要を入れた」と述べている。著者自ら、概略から詳細へと述べた方が分かりやすいと、この本でも述べているからだ。

 しかし、多くの本は、その章の最初で、概略を述べていない。自ら、「概略から詳細へと述べた方が分かりやすい」と述べていても。これでは、自分の主張を、自ら否定しているのに近い。

 章では概略を述べていても、節では述べていないことも多い。海保氏の本もそうだ。章では述べて、節では述べなくてよい理由は書かれていない。主張に一貫性がない。

 節でも概略が書いてある数少ない本の一つが、三島浩著「技術者・学生のためのテクニカルライティング」である。ほぼすべての章と節で、概略から始まっている。

 概略から始まっていても、私から見れば不十分な概略が多い。多くの場合、その章や節のテーマを述べている。読み手が知りたいのはテーマではない。その章や節のポイントだ。なぜ、ポイントを出し惜しみするのか?結局無駄な情報を読まねばならなくなるので、時間の浪費となる。
従来の書き方に引きずると、おかしな文章ができる
 ロジカルライティングの受講者の中には、これまでの書き方を捨てられない人が多い。従来の書き方に引きずったまま、新しい書き方で書こうとすると、おかしな文章ができる。

 私は、ビジネスレポートの先頭に置く総論を、下記のようなパターンを基本として指導する。総論を目的と要約に分けて、要約のパートでは、結論の文の後に、調査結果などの重要な情報を列挙する。パターンを使うのは、何もなしに、「レポートの最初には重要な情報をまとめてください」とだけ言っても書けないからである。まあ、まとめるときの目安だ。

 このパターンで総論を書いてもらうと、パターンから外れる人が出てくる。結論の文の後に、調査結果などの重要な情報を列挙し、さらに何かまとめのようなことを述べる。しかも、そのまとめは、結論の文とは内容が異なっている。つまり、まとめの文が最初と最後の二カ所にあって、しかも内容が違うのだ。

 なぜこのようなパターンから外れる文章になるかというと、従来の書き方に引きずっているからだ。従来は、最後にポイントを述べてきた。だから、重要な情報を列挙したあと、何かまとめのようなことを述べないと気持ちが悪いのだ。最後に結論の文と同じ主旨のことを繰り返すなら、まだ許せる。しかし、多くの人は、結論の文を取って付けたように作り、最後に本当に言いたいことを述べてくる。

 従来の書き方に引きずると、おかしな文章ができる。
どんな情報が重要か
 文章の先頭には、重要な情報を書く。ところが、どんな情報が重要かの判断が、意外と難しい。書き手は、読み手にとって重要な情報より、自分にとって重要な情報を選んでしまうのだ。そこで、どんな情報が重要かを、週報と事業計画書を例に考えてみよう。

 週報における重要な情報というと、多くの人はその週に達成した成果を挙げる。まあ確かに、書き手にとって成果は重要だ。何しろ自分の評価に関わる。読み手のリーダーも知りたい情報に違いない。

 しかし、読み手であるリーダーが最も知りたいのは、予定どおり進んでいるかだ。なにしろ、リーダーはプロジェクトをコントロールしている立場だ。ある担当者の仕事が遅れているなら、担当の奮起を促すか、誰かサポートにつけるか、サポートをつけるなら、誰の手が比較的空いていて、どんなサポートが可能なのか、を判断しなければならない。どんな成果を出したかは知りたいが、それ以上にプロジェクトをコントロールするための情報を知りたいのだ。

 事業計画書における重要な情報というと、多くの人は来期に遂行すべき業務計画を挙げる。まあ、確かに遂行すべき業務は重要だ。現場から見れば、来期に遂行すべき業務は最初から決まっていることが多い。計画書の承認は、事実上後追いに過ぎない。自分たちが遂行しようとしている業務を、トップが認めてくれなければ、大混乱が生じる。

 しかし、読み手であるトップが最も知りたいのは、その計画の妥当性を示す情報だ。なにしろ、トップの仕事はその計画が妥当であることを検証することだ。妥当性の検証のためには、前期の実績や現状のビジネス状況などの情報が必要だ。計画そのものを知りたいのは当然として、なぜその計画を組んだのかの根拠が知りたい。そこを検証するのだから。

このように、重要な情報と一言で言っても、実は難しい。書き手と読み手で重要な情報が異なるのだ。
ANSIの"Guidelines for Abstracts"
 American National Standards Institute (ANSI)では、"Guidelines for Abstracts"というアブストラクトを書く標準を制定しています。そこでは、アブストラクトでは、目的、方法、結果、結論を書くよう指定しています。

 ANSIは、アメリカにおける、科学工業界の標準を制定する組織です。日本で言うJISに相当します。JISと違うのは、文章の書き方まで標準化してしまうことです。その標準書は、ネットを通じて購入もできます。

 ANSIは、"Guidelines for Abstracts"で、アブストラクトには、目的、方法、結果、結論を書くと述べています。さらに、必要なら過去の調査についても言及する(Refer to earlier
research literature only if doing so is essential in order to clarify the purpose of the document.)とも述べています。

 しかし、実は多くの学会論文で、アブストラクトに結果や結論が書かれていません。どんな研究をしたかという目的だけ述べ、結果や結論を述べていないのです。私は、アブストラクトに結果や結論が述べられている確率を調査したレポートを見たことがあります。そのレポートでは、ある国際学会に特定はされているものの、その確率は約50%ということでした。

 論文やレポートでは、アブストラクトに結果や結論を書くのです。最初に結果や結論を示すことで、その調査や研究の有効性をアピールするのです。有効性がわからないまま読み進んだら、結局、意味のない調査や研究だったことが、最後にわかることになりかねません。有効性がわからないなら、読み手はその論文やレポートを読む優先度を下げざるを得ません。

 ちなみに、この話をしたとき、「アブストラクトで結果や結論を述べるのは当然ではないか」と言ってきた人がいます。あなたの所属する世界では当たり前かもしれませんが、先にご紹介したレポートが示すように、あたりまでない世界がたくさんあるのです。



プロフィール

ロジカルスキル研究所代表

Author:ロジカルスキル研究所代表
ロジカルスキルを企業研修で指導しています。主な講座は、ロジカルライティング、ロジカルネゴシエーション、ディベート、ロジカルプレゼンテーション、英文テクニカルライティングです。

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