Logical Skill の深い話
Logical Skill (特にLogical Writing) について、著書(たとえば、「論理が伝わる世界標準の書く技術」講談社)には書かなかった、より深い話を紹介します。
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従来の書き方に引きずると、おかしな文章ができる
 ロジカルライティングの受講者の中には、これまでの書き方を捨てられない人が多い。従来の書き方に引きずったまま、新しい書き方で書こうとすると、おかしな文章ができる。

 私は、ビジネスレポートの先頭に置く総論を、下記のようなパターンを基本として指導する。総論を目的と要約に分けて、要約のパートでは、結論の文の後に、調査結果などの重要な情報を列挙する。パターンを使うのは、何もなしに、「レポートの最初には重要な情報をまとめてください」とだけ言っても書けないからである。まあ、まとめるときの目安だ。

 このパターンで総論を書いてもらうと、パターンから外れる人が出てくる。結論の文の後に、調査結果などの重要な情報を列挙し、さらに何かまとめのようなことを述べる。しかも、そのまとめは、結論の文とは内容が異なっている。つまり、まとめの文が最初と最後の二カ所にあって、しかも内容が違うのだ。

 なぜこのようなパターンから外れる文章になるかというと、従来の書き方に引きずっているからだ。従来は、最後にポイントを述べてきた。だから、重要な情報を列挙したあと、何かまとめのようなことを述べないと気持ちが悪いのだ。最後に結論の文と同じ主旨のことを繰り返すなら、まだ許せる。しかし、多くの人は、結論の文を取って付けたように作り、最後に本当に言いたいことを述べてくる。

 従来の書き方に引きずると、おかしな文章ができる。
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どんな情報が重要か
 文章の先頭には、重要な情報を書く。ところが、どんな情報が重要かの判断が、意外と難しい。書き手は、読み手にとって重要な情報より、自分にとって重要な情報を選んでしまうのだ。そこで、どんな情報が重要かを、週報と事業計画書を例に考えてみよう。

 週報における重要な情報というと、多くの人はその週に達成した成果を挙げる。まあ確かに、書き手にとって成果は重要だ。何しろ自分の評価に関わる。読み手のリーダーも知りたい情報に違いない。

 しかし、読み手であるリーダーが最も知りたいのは、予定どおり進んでいるかだ。なにしろ、リーダーはプロジェクトをコントロールしている立場だ。ある担当者の仕事が遅れているなら、担当の奮起を促すか、誰かサポートにつけるか、サポートをつけるなら、誰の手が比較的空いていて、どんなサポートが可能なのか、を判断しなければならない。どんな成果を出したかは知りたいが、それ以上にプロジェクトをコントロールするための情報を知りたいのだ。

 事業計画書における重要な情報というと、多くの人は来期に遂行すべき業務計画を挙げる。まあ、確かに遂行すべき業務は重要だ。現場から見れば、来期に遂行すべき業務は最初から決まっていることが多い。計画書の承認は、事実上後追いに過ぎない。自分たちが遂行しようとしている業務を、トップが認めてくれなければ、大混乱が生じる。

 しかし、読み手であるトップが最も知りたいのは、その計画の妥当性を示す情報だ。なにしろ、トップの仕事はその計画が妥当であることを検証することだ。妥当性の検証のためには、前期の実績や現状のビジネス状況などの情報が必要だ。計画そのものを知りたいのは当然として、なぜその計画を組んだのかの根拠が知りたい。そこを検証するのだから。

このように、重要な情報と一言で言っても、実は難しい。書き手と読み手で重要な情報が異なるのだ。
ANSIの"Guidelines for Abstracts"
 American National Standards Institute (ANSI)では、"Guidelines for Abstracts"というアブストラクトを書く標準を制定しています。そこでは、アブストラクトでは、目的、方法、結果、結論を書くよう指定しています。

 ANSIは、アメリカにおける、科学工業界の標準を制定する組織です。日本で言うJISに相当します。JISと違うのは、文章の書き方まで標準化してしまうことです。その標準書は、ネットを通じて購入もできます。

 ANSIは、"Guidelines for Abstracts"で、アブストラクトには、目的、方法、結果、結論を書くと述べています。さらに、必要なら過去の調査についても言及する(Refer to earlier
research literature only if doing so is essential in order to clarify the purpose of the document.)とも述べています。

 しかし、実は多くの学会論文で、アブストラクトに結果や結論が書かれていません。どんな研究をしたかという目的だけ述べ、結果や結論を述べていないのです。私は、アブストラクトに結果や結論が述べられている確率を調査したレポートを見たことがあります。そのレポートでは、ある国際学会に特定はされているものの、その確率は約50%ということでした。

 論文やレポートでは、アブストラクトに結果や結論を書くのです。最初に結果や結論を示すことで、その調査や研究の有効性をアピールするのです。有効性がわからないまま読み進んだら、結局、意味のない調査や研究だったことが、最後にわかることになりかねません。有効性がわからないなら、読み手はその論文やレポートを読む優先度を下げざるを得ません。

 ちなみに、この話をしたとき、「アブストラクトで結果や結論を述べるのは当然ではないか」と言ってきた人がいます。あなたの所属する世界では当たり前かもしれませんが、先にご紹介したレポートが示すように、あたりまでない世界がたくさんあるのです。

総論が先か?各論が先か?
 よく、「総論と各論どちらを先に書くのか?」と質問される。私の答えは、「簡単なロジックなら総論が先、複雑なロジックなら各論が先」である。

 簡単なロジックなら総論から書く。たとえば、「〇〇には、A,B,Cの3つがある」は、その文章を書く前から頭にある。まずこの文をベースに総論を書く。総論を後に回す理由はない。同様に、ロジックが定番で決まっている場合も、総論から書く。たとえば、トラブル解析なら、問題ー原因分析-対策立案-効果確認、というロジックは固定だ。総論も書きやすい。

 しかし、複雑なロジックの場合、総論は最後に回すこともある。ロジックが複雑になると、各論を書いている内に、予定変更を強いられる。概要を考えていたときには頭に浮かばなかったことが、詳細を書いている内に頭に浮かぶことはよくある。こういう場合は、総論を後から書く(後から書くだけで、位置的には各論の前になる)。

 どちらにしろ、総論は最後に推敲する。まあ、推敲するのは当たり前か。推敲することは、総論に限ったことではない。各論だって最後に推敲する。

 ちなみに、この文章は総論を先に書いている。



理屈は習慣に負ける
 論理的な文章では、概略から詳細へと書く。概念は知っていても実践できる日本人は少数派だ。習慣が邪魔をするのか。

 「概略から詳細へと書く」はライティングの基本だ。概略、つまりポインとが先にあれば、無駄な文章を読まずに済む。概略が先にあれば、詳細を読むにも分かりやすい。だから論文でもアブストラクトを先に書く。

 たまに、「後ろを読めば分かることを先に書く必要はない」という人もいるが、ビジネス経験がないのだろう。後ろまで読まなければ分からない文章は、ビジネスでは役に立たない。そんな文章は、忙しいビジネスパーソン、誰も後ろまで読まない。これが口頭報告なら、「いいから結論から言え」と言われる。

 「概略から詳細へと書く」ことは知っていても、できる人は少ない。メールの先頭にポインとを書く人は少数派だ。先日、分かりにくいメールのサンプルを、ある大学職員研修で頂いた。その問題のほとんどは、先頭にポインとを書いておけば解決できることだった。ポイントが先に書いてあるビジネス書も、見たことはほとんどない。ビジネス書でも、各章のポイントは先に書くべきだ。

 「概略から詳細へと書く」が守られているケースは、習慣的にフォーマットが決まっているケースぐらいだ。たとえば、論文なら、アブストラクトを先頭に書く。そう決まっているから。ビジネスレポートでも、ポイントを先に書く。そう決まっているから。

 なぜ、習慣のないところで、「概略から詳細へと書く」が守られないかと言えば、理由は複数ある。
 1.詳細から概略に書くのが楽だから。一般的には、やった結果から結論が導かれる。ノートには詳細から概略へとまとめてある。
 2.書き手は、詳細から概略の説明でも分かりやすいから。何しろ、書き手は結論を書く前から知っている。書き手から見れば、ポイントを先に述べる必要性を強くは感じない。
 3.書き手は詳細が書きたいから。何しろ書き手が時間を最も費やしたのが詳細だから。たとえば、以下に大変だったかを伝えたいのだ。

 しかし、私が感じる一番の理由は、習慣に反したくないからだ。習慣、つまり「周りがみんな普通やっていること」に反したくないのだ。周りが皆、詳細から概略に書いている中で、自分だけが概略から詳細へと書くのは勇気がいる。詳細から概略に書いている上司から、クレームが付くこともあるだろう。

 こうして、理屈は習慣に負けていく。


プロフィール

ロジカルスキル研究所代表

Author:ロジカルスキル研究所代表
ロジカルスキルを企業研修で指導しています。主な講座は、ロジカルライティング、ロジカルネゴシエーション、ディベート、ロジカルプレゼンテーション、英文テクニカルライティングです。

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